特定行為研修とは?特定行為って?何ができるの?

皆さんこんにちは、おしです!

今回のテーマは「看護師の特定行為研修」についてです。看護師のステップアップ・スキルアップ方法として認定看護師や専門看護師などがありますが、2015年より「特定行為研修」というものが始まりました。

僕は2019年4月より1年かけてこの特定行為研修を受けているのですが、「そもそも特定行為研修って何?」「何ができるようになるの?」と思われる方が多いと思うので、今回はその特定行為研修について目的や何ができるようになるのかについて解説していこうと思います。



看護師の特定行為研修とは

看護師の特定行為研修とは、本来医師しか行うことのできない医行為のうち、絶対的医行為を除いた一部の医行為(特定行為)を医師の指示(手順書)のもと看護師が実践できるようにするための研修制度のことです。

下記画像の示すB1、B2に含まれる内容の医行為は侵襲度が高かったり、判断が難しいような内容の医行為は本来医学的知識を持つ医師でしかできません。

しかし、この看護師特定行為研修を受け試験に合格すると、下記の画像のうちB1もしくはB2に含まれるような医行為を医師の指示(手順書)のもと看護師が行うことができるようになります(手順書についてはこの後に書いていきます)。

画像引用:鹿児島大学病院看護師特定行為研修センター
画像引用:鹿児島大学病院看護師特定行為研修センター

特定行為は21区分38行為

では、そのB1やB2に含まれる特定行為とはいったいどんな行為なのかについて解説します。特定行為は厚生労働省により定められており、令和元年(2019)時点で定められている特定行為は下記に示す21区分38行為になっています。

画像引用:日本看護協会
画像引用:日本看護協会

この画像に示す38行為は本来医師でしか行えませんが、特定行為研修を受けることで看護師も手順書に沿って実施できるようになります。

特定行為研修制度の目的

では、この特定行為研修の目的とはいったい何のなのか?について解説します。

患者への早期介入

1つ目の目的は患者への早期介入・早期治療をできるようにすることです。看護師特定行為研修を受けることで医師の指示(手順書)のもと医行為を行うことができるようになることで、患者へ早期介入・早期治療を行うことができるようになります。

とはいってもイメージがつかないですよね?具体的な内容は手順書と働き方のイメージの項目で解説しようと思いますが、医師があらかじめ手順書に包括的な医行為(特定行為)の指示を記載しておくことで、特定行為研修を受けた看護師はその手順書に従い医行為(特定行為)を行うことができるようになります。

そうすることで、多忙な医師に改めて医師に指示を仰ぐという時間を割くことができるため患者への早期介入・早期治療ができるようになります。

医師の負担軽減

2つ目の目的は上でも少し記載しましたが多忙な医師の業務を減らすという目的があります。医師は外来患者・入院患者の診察、手術、研究、外勤などで多忙ですよね。患者のことで聞きたいことがあって電話をかけても診察や手術で対応できなかったり、繋がらないこともあるのではないでしょうか?

それでは入院患者に何かあった時にすぐに対応することができません。でもどうしても確認しないといけないことは医師の手を止めてでも確認しないといけませんよね。そうすると医師の業務が増えてしまいます。

そのような時に最初に汎用的な指示(手順書)を準備しておくことで、何かあった時(例えば患者に脱水が疑われる場合など)に医師の手を止めずに看護師のみで対応することができます。

結果、医師の負担が軽減することに繋がります。

2025年問題への対策、医療費の削減

2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上(国民の3人に1人が65歳以上・5人に1人が75歳以上)という人口の水位になることによって起こる様々な問題のことです(医療費の増加など)。

今国は医療費を抑えるために地域医療(在宅医療)を推進していますが、それでも医療費が高いことに変わりはなく、さらに2025年を境目に高齢者がどんどん増えていくことで、医療費が高くなってしまうことは目に見えています。

医療費を抑えるにはどうしたらいいか?それは入院患者の状態悪化を防ぎ余計な医療費をかけないこと、地域医療(在宅医療)も同様に入院に至るような状態悪化に繋げないことです。

つまり、患者の状態悪化を防ぐことができれば医療費が抑えられるわけです。特定行為の中には入院患者に関連する医行為、地域医療(在宅医療)に関連する医行為があり、多くの看護師が特定行為を行うことができれば患者の状態悪化を防ぎやすくなる=医療費が削減できるということに繋がるということです。

それと同時に、今後増える一方であろう患者全てに医師が対応することが難しくなると予想されるため、一部の医行為(特定行為)を看護師で補填することができれば医師の業務負担を減らすことができます。

手順書と働き方のイメージ

特定行為についてなんとなく理解していただけたでしょうか?ただ、まだ実際にどのように活躍できるのか、というか手順書って何?っていう方もいらっしゃると思いますので、それについて解説していこうと思います。

手順書とは

手順書とは入院患者さんに対し作成する文書(汎用指示)のことで、その文書の中には該当する患者さんに対し実施する特定行為の内容などが書いてあります。具体的には下記内容の(1)~(6)を記載したものを医師に作成してもらいます。

画像引用:厚生労働省ホームページ
画像引用:厚生労働省ホームページ

働き方のイメージ

例えばAさんという患者さんに脱水が疑われた場合に、そのAさんの病状の範囲が手順書に記載された病状の範囲内であれば医師に指示を仰ぐことなく特定行為研修を受けた看護師がこの手順書に従い点滴などの投与をするという流れになります(入院の時点で必ず担当医師による初期診察がされていることが前提)。

画像引用:鹿児島大学病院看護師特定行為研修センター
画像引用:鹿児島大学病院看護師特定行為研修センター

ここで気になるのが一般的な汎用指示と手順書って何が違うのかが曖昧ということです。継続指示に点滴の内容を書いてくれれば(具体的指示)があれば特定行為研修を受けていない看護師でもできるはずです。

僕自身はこの手順書と一般的な汎用指示との違いがさっぱり分かりませんでした。それなら最初に具体的指示もらっとけばいいじゃん!と思ったわけです。

これは確かに最初から具体的指示をもらっておけば研修を受けてなくても医行為ができるというのは正しいです。ただ、医師がそこまで具体的に書いてくれるような協力的な医師であったら良いのですが、おそらくはそんな医師はいません。

なので、あらかじめ手順書だけ作成してもらうことで後の点滴の判断は特定行為研修を受けた看護師が行うということになります(手順書の記載が必須の制度なので、非協力的な医師しかいない病院にお勤めの方がこの研修を受ける意味はないです)。

ただ、この脱水の補正についてはまだ僕自身もイメージができていない部分がありまして、脱水が疑われたとして採血データは見なくていいのか?点滴のオーダーはどうするのか?という部分は疑問になっています。

仮に手順書に「採血結果でこの状態の範囲であれば」と書かれていても僕たちは採血のオーダーはできません。また「点滴補正」という指示があっても点滴のオーダーができません(必要時のみに出せるオーダーでオーダーする場合や緊急カートにあるものの使用であればできますが)。ということで実際どのように活動できるかは不明確ということになっています。

この採血や点滴のオーダーに関してですが、確かに看護師には資格上検査のオーダー権や処方権はありませんし、今後もその権限が与えられることはないしょう。

ただ、電子カルテの権限にて代行入力(医師の代行で点滴オーダーや検査オーダーが出せる)の権限が与えられるようになる可能性はあります。

ただし、この点に関しては病院の裁量によるので断定的なことは言えません。病院側が「代行入力」を許可してくれない場合は「採血結果ではなく臨床症状のみで判断」となる可能性がありますし、「点滴も緊急カートにあるものを使用」という形になるかもしれません。

そこらへんは規定はなく本当に病院の裁量によります。

もう1つ分かりやすい働き方のイメージとしては特定行為「インスリン投与量の調整」について解説します。

インスリンの注射療法を行なっているBさんを例にしてみます。Bさんに対し毎食前と眠前に血糖測定を実施しその数値に応じて(超)速攻型インスリンや持効型インスリンを注射していたとします。

この際のBさんに対する汎用的な指示はおそらくどこの病院も担当の医師からもらっているのではないでしょうか(例えば(超)速攻型インスリンを本来は5単位打つが血糖が低い時は1単位減らして注射するなど)。

ただ、「ここ数日Bさんの血糖値が毎回60台や70台で低い値が続いている」と気づいた時はどうするでしょうか?(超)速攻型インスリンのベースの投与量を変えたほうがいいと思い看護師がベースの投与量を変えますでしょうか?違いますよね。おそらく担当の医師に相談すると思います。

正にこのような状況であらかじめ担当医師が「インスリン投与量の調整」の手順書を作成してくれていれば特定行為研修に合格した看護師であればベースの投与量の変更指示が出せ担当医師の手を止めずに早期介入・早期治療ができるというわけです。



研修の受講について

受講方法

特定行為研修の受講方法は全国各地の指定医療機関で受けられます。2019年段階で指定されている期間の詳細を下記エクセルファイルで貼っておきます(特定行為研修ポータルサイトより引用)

hospital_list_pc

指定医療機関に応募し、面接などの試験をクリアしたら受講することができます。受講できる研修内容は施設により異なりますので、取得したい特定行為研修を実施している施設を探す必要があります。

受講のイメージ/研修期間

学習する科目数は共通科目315時間(もしくは250時間)専門科目15~72時間呼吸器関連科目や創傷処置関連科目など)を受ける形になります。

研修期間は各施設により異なりますが6ヶ月~24ヶ月かけて行います。研修のために使用する教材に規定はないので、どの教材を使うかは各施設が決めます。

僕の研修施設ではS-QUE研究会の特定行為研修(e-ラーニング)を使用しており研修期間は1年です。月に2~3回集合教育もあり、研修生全員で講義を受けています。

僕の研修施設の場合は「働きながら研修を受ける」という研修方法なので日勤後や夜勤明けの日に自宅やカフェでe-ラーニング学習を行っています。僕は共通科目315時間の研修なので1日平均2-3時間ほど勉強しています(短期集中型の研修施設では合宿形式で研修を受けるパターンだと思います)。

下図はある週のe-ラーニング受講イメージです。1コマが45分~60分程度です。1時間で終われば問題ないですが、聞き取れなかった部分は繰り返し見たり、ノートへの記載などで意外と1時間以上かかるので大変に感じます。

e-ラーニング受講のイメージ(僕の場合)
e-ラーニング受講のイメージ(僕の場合)

受講費用

受講費用は研修施設や受講内容によりますが共通科目+専門科目でおおよそ40~70万円です。研修費の補助が出るかどうかは働いている医療機関に確認しましょう。

共通科目が合格していれば次年度以降は共通科目の受講は不要

315時間(もしくは250時間)の共通科目は1度試験に合格していれば次年度以降新しく別の特定行為研修を受ける場合に共通科目の受講が不要となります。

例えば初年度は呼吸器関連の特定行為を取得するために共通科目+呼吸器関連科目を学習し合格した場合、次年度以降に創傷処置関連科目などの他の科目を受講する際に共通科目分の315時間(もしくは250時間)を受けずに創傷処置関連の科目のみでOKとなります。

その分受講費用も安くなり、初年度に共通科目+専門科目で50万円の費用がかかったとしても、次年度以降は専門科目分の費用(5万円-10万前後)のみで研修を受けることができます。

活躍できる場所

病院

315時間の共通科目の中には病態生理やフィジカルアセスメントの他、本来は医学部で習うような臨床推論(医師の病気の捉え方など)などを学習します。このような学習をすることで病態判断能力が向上し、早期の介入がしやすくなります。

そして、特定行為研修の目的である患者へ早期に医行為(特定行為)を行う(早期介入・早期治療)や医師の業務負担の軽減に繋げることもできます。

また、より医学的な知識を身に付けることで医師との連携も取りやすくなることもメリットの1つです。

在宅

今後増えていくであろう地域医療(在宅医療)の場面でも特定行為を行うことのできる看護師が活躍できます。在宅で療養しているような方の中には治療のための病院への受診が困難な方もたくさんいます。そのような方に対しより高度な行為(特定行為)を実施できる看護師が訪問することで”病院受診”という療養者の負担を減らすことができます。

また、病態判断能力が向上することで、療養者の不安に対するアドバイスがやすくなるといったメリットもあります。

介護施設

介護保健施設など医師が少なかったり常駐していないような施設においても、医師がいない場面での活躍が期待できます。

特定行為研修の課題点

医師の協力が必須

特定行為研修を受講しても、担当の医師が手順書を作成してくれなければ特定行為を行うことができません。おそらくほとんどの医師が看護師特定行為研修の内容について知りません。実際僕も「特定行為研修を受けてます」っていってもピンと来ていない医師が多いです。

この特定行為研修を生かしていくには医師の協力が必須となるため、医師にこの研修についての情報を広め協力を仰ぐ必要があります。「先生がこういった指示(手順書)を作成してくれれば、僕たちは患者さんに早期介入ができ、かつ先生たちの業務負担を軽減させることができます」といったことを広げると良いと思います。

ただ、医師の中には自分の治療方針に水を差してほしくないといった医師もいると思います。それはある意味当然といえば当然なので、この考えを持っている医師からの協力は得られないかもしれません。

日本医師会の見解も気になるところです。特定行為研修そのものについての見解は確認しておりませんが、診療看護師(ナーシング・プラクティショナー/NP)についての日本医師会の見解があります。

日本医師会の見解を簡潔にまとめると「本来何かの医行為を行う際には医師が診察をするべきであり、診察もしないで事前の指示を出すことは不可能である」、「診察や診療は身体に侵襲を与える行為であり、医学的知識をもつ者が行わなければ患者を不幸にする」、「優先課題は医師の確保であるため、診療看護師の制度は容認できない」ということです。。

要はいくら医師と同じような勉強をしていても、医学部で勉強した訳でなければ医師と同じ仕事は担保できないということですね。

結構厳しい意見ですよね。必死に勉強している身としては少し悲しい気持ちになってしまう見解です。

こういった医師側の意見に対してどう動いていくかが看護側の課題ですね。

研修費や研修時間

研修費用は上の項目でも記載しましたが共通科目+専門科目で40-70万円ほどします。いくらスキルアップのためとはいえ、看護師の給料からみると決して安くはない金額です。

全額もしくは半額程度補助が出るのであれば極端に高い訳ではありませんが、全く補助が出ないとなると厳しい金額のように感じます。

研修時間もややネックです。自宅で学習できるとはいえ1日平均2~3時間は勉強しないといけないので、多忙な病棟の方は疲労で勉強する気力が起きないかもしれません。

僕の場合もそうですが、研修期間中はプライベートな時間がほぼ作れていません。休みの日もだいたいパソコンに張り付いています。

医学を学ぶ訳ですから膨大な勉強をしなければいけないのは当然です。しかしあまりにもプライベートの時間がないので人によっては”絶対に嫌”と感じる人もいるでしょう。

このような研修費用や研修時間の問題をより良い方向に改善していくことが課題となると思います。

患者側の思い

看護師などの医療職以外の方の身になって考えてみてください。今まで受けてきた医師の治療を、高度な勉強をしてきたとはいえ看護師に診てもらうとなった場合にあなたは賛同できるでしょうか?

サバサバした方で「全然いいよ」という方もいれば「そんなの嫌。絶対に医者に診てもらいたい」という方もいると思います。

患者が医療に対し不審な思いを持ってしまっては元も子もありません。全ての人に理解してもらうことは不可能とは思いますが、できるだけ多くの人にこのような研修制度があるのを知ってもらい、看護師だけど医学的知識を十分に持っているということを知っていただき安心していただくことが課題になってきます。

そのためにも特定行為研修を受けている受講生はしっかりと学習を行う必要があります。


看護師特定行為研修の個人的な感想と思い

プライベートの時間がかなり削られるので辛い

僕は今年度(2019)特定行為研修を受けています。上でも述べましたが1日平均2-3時間は勉強しているためプライベートの時間はあまりなく、ひたすらe-ラーニングで勉強しているといった生活をしています。仕事で疲弊した日にできなかった分は休みの日に追加で勉強しているため本当にパソコンに張り付いていますね(笑)。

なので僕のような独身を除き(笑)、家庭があったり、ましてや子どもがいるような家庭では家事をする時間や子育てをする時間がほとんど作れない可能性が高いです。

勉強自体は結構しんどいですが、臨床を経験した上で改めて病態生理などを勉強しているとイメージがつきやすいので結構楽しく学習ができています(ただし講義してくれる医師が分かりやすい医師、分かりにくい医師と色々いて、分かりにくい医師の講義はかなり苦痛ですが笑)。

あとは自分の病院でしっかり活躍できるかということが気になるところですが、これは自分から様々な医師に協力を仰ぐようにしていくしかありません。色々な医師に情報提供しできるだけ多くの場面で特定行為を実践できるようにしていきたいと考えています

研修後は他の看護師とは違う計らいが欲しい

そしてせっかく特定行為研修を受けたのですから、それが活用できるように自分の病院以外(在宅や介護施設など)でも副業的な形で月に数回アルバイトを許可していただけないかなと思っていますが、これは難しいかな・・・。

ただ、かなり苦労をした分何もしていない看護師よりも多くの収入が得られるように計らってほしいというのが僕の願いです(笑)

まとめ

特定行為研修について解説してみましたがいかがでしたでしょうか。

分かりやすく書いたつもりですが、制度そのものがまだ曖昧なところが多々あるため解説しづらいといえば解説しづらいので、ひょっとしたらまだ腑に落ちない方もいるのではないでしょうか。

もし、疑問点などあればお答えしますのでコメント等で連絡をお願いします。

以上です。訪問ありがとうございました!!!

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